2025.09.13WATCH REPAIR
「マストタンク」は、その普遍的な美しさと歴史的背景から、多くの時計愛好家に愛され続けているモデルです。今回は、長年の時を経て変色してしまったこの名作の輝きを、専門の技術で蘇らせた事例をご紹介します。
「マストタンク」の魅力を語る上で、まずはそのルーツである「タンク」シリーズの歴史に触れずにはいられません。
「タンク」シリーズが誕生したのは、第一次世界大戦中の1917年。創業者ルイ・カルティエが、戦場のイギリス軍ルノー製戦車を上空から見た形にインスピレーションを得てデザインしたとされています。特徴的な垂直のライン「ブランカード」と、水平のライン「ブリッジ」は、まさに戦車のキャタピラと車体を表現したもの。この大胆かつ革新的なデザインは、当時のアールデコ様式と見事に融合し、エレガンスの象徴となりました。
そして1970年代、カルティエは「マスト ドゥ カルティエ(Must de Cartier)」という新しいラインを立ち上げます。これは、高価な貴金属をケースに使用していた従来のモデルに対し、銀(シルバー)素材にゴールドメッキを施した「ヴェルメイユ(Vermeil)」ケースを採用することで、より多くの人々がカルティエの時計を手にできるようになることを目指した画期的な試みでした。
「マスト」とはフランス語で「~せねばならない」という意味。これは、カルティエがもはや一部の王侯貴族だけのものではなく、「必ず手に入れなければならない」存在であることを示唆しています。この戦略は見事に成功し、マストタンクは世界的なベストセラーとなり、カルティエのブランドイメージを確固たるものにしました。
今回お預かりしたマストタンクは、写真のように美しいゴールドカラーが茶色く変色していました。この変色の原因は、主に以下の2つが考えられます。
これらの変色は、ご自身でのお手入れだけでは元に戻すことが難しく、専門の技術を要します。
今回行った変色取り修理の工程を簡単にご紹介します。
【Before】 長年の変色により、全体的にくすんで茶色っぽくなっていたケース。カルティエの持つエレガントな輝きが失われていました。
【After】 まるで新品のように、ゴールドの美しい輝きが蘇りました。変色が完全になくなり、本来の「マストタンク」が持つ気品あるオーラを放っています。お客様も大変喜ばれることでしょう。
カルティエの時計は、単なる時間を知る道具ではありません。そこには、唯一無二のデザイン、そして歴史と物語が息づいています。経年劣化によって一時的にその輝きが失われても、専門的なメンテナンスによって再び輝きを取り戻すことができます。
ご自宅に眠っている大切なカルティエの時計がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、その時計が持つ本来の美しさと物語を、次世代へと繋いでいくお手伝いをさせていただきます。