2025.10.08WATCH REPAIR
平素よりカイドージュリーのブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。
今回ご紹介するのは、カルティエの名作ウォッチ「マスト ドゥ カルティエ タンク」の変色取り修理事例です。お客様からお預かりした大切な時計が、見事に輝きを取り戻しました。
「ケースが黒ずんでしまった」「金メッキが剥がれてきた」と諦めていた方へ。マストタンクが持つ独特の素材の秘密と、その変色を解決する当店の確かな技術をご紹介します。
今回修理を行ったマストタンクのケースには、「ヴェルメイユ(Vermeil)」という素材が使われています。
お手元の時計の裏蓋の刻印をご覧ください。
【裏蓋の刻印】
「ヴェルメイユ」とは、純度92.5%以上の銀(シルバー925)の素地に、厚い金メッキを施すという、フランスの伝統的な技法です。銀製品に比べて酸化・硫化しにくく、真鍮や銅にメッキをする一般的な金張りよりも格段に高い品質が求められます。
しかし、この銀製の素地ゆえに、長年の使用や保管環境によってメッキの微細な隙間から銀が空気中の硫黄成分などと反応し、硫化銀となって黒く変色してしまうのが、マストタンクによく見られる症状です。
なぜカルティエは、高級素材である金ではなく、ヴェルメイユ(金メッキ)を採用したのでしょうか。そこには、老舗ジュエラーの革新的な戦略があります。
「マスト ドゥ カルティエ(must de Cartier)」ラインが誕生したのは1970年代。この時代は、スイスの伝統的な機械式時計が日本のクォーツ時計に市場を奪われる「クォーツショック」の真っ只中でした。
カルティエは、この危機を乗り越えるため、**「すべての人がカルティエの魅力に触れるべき、必需品(Must)」**というコンセプトを掲げ、比較的手の届きやすい価格帯の「マスト」ラインを発表しました。ヴェルメイユ素材の採用は、デザインの美しさを保ちながら、この新たな市場を開拓するための戦略だったのです。
マストタンクのベースである「タンク ウォッチ」は、1917年にルイ・カルティエによって考案されました。第一次世界大戦中に登場したフランスの戦車(ルノーFT型)の平面図からインスピレーションを得てデザインされました。
戦車のキャタピラ部分をケースの縦枠(ラグ)に見立てた角型デザインは、当時の主流だった丸型時計に一石を投じ、後のアールデコ様式の先駆けとなりました。
今回お預かりしたマストタンクは、裏蓋やケースのフチを中心に、銀の硫化による黒ずみや変色が目立っていました
ヴェルメイユの変色を自宅で市販の研磨剤などで修理しようとすると、かえってメッキを薄くしたり剥がしたりしてしまうリスクがあります。
カイドージュリーでは、マストタンクの繊細なヴェルメイユケースの状態を見極め、表面に残存する黒ずみを、メッキを傷つけないよう慎重に除去します。
今回は黒ずみを除去し、時計全体を研磨することで、マストタンクらしい艶やかな金色を取り戻すことができました。
今回の変色取り修理の料金は15,400円(税込)となります。また往復の送料は弊社が負担させていただきます。
歴史とロマンが詰まったカルティエ マストタンク。長年の時を経て変色してしまったそのケースも、専門の技術にかかれば当時の輝きを取り戻すことができます。
変色は諦める必要はありません。
ヴェルメイユの特性を知り尽くし、適切な処置を施すことで、お客様の大切な時計をもう一度安心してご愛用いただける状態にいたします。カルティエの時計の変色、メッキ剥がれでお悩みの方は、ぜひ一度カイドージュリーにご相談ください。
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