2025.11.26WATCH REPAIR
カルティエの「マストタンク(Must Tank)」は、その洗練されたデザインと豊かな歴史から、今なお多くの時計愛好家を魅了し続けています。しかし、長年のご愛用や経年により、ケースの黒ずみやメッキ剥がれが発生し、せっかくの美しい時計がくすんでしまうことがあります。
今回ご紹介するのは、全体的に黒く変色し、特に四隅のメッキが剥がれてしまったマストタンクの再メッキ修理事例です。お客様の大切な時計が、どのようにしてかつての輝きを取り戻したのか、修理工程とポイントを詳しく解説します。


マストタンクの多くは、ケース素材に「ヴェルメイユ(Vermeil)」という技法を採用しています。これは、**シルバー(銀/ARGENT 925)**のケースに、**厚い金メッキ(PLAGUE OR G)**を施したものです。
黒ずみ(変色)の原因: 内部のシルバー素材が汗や空気中の成分と反応し、硫化することで黒く変色する(硫化銀)現象です。これがメッキの薄い部分や剥がれた箇所から広がり、全体的な黒ずみとして現れます。
メッキ剥がれの原因: 摩耗しやすい四隅や、頻繁に触れる箇所からメッキが薄くなり、下地のシルバーや真鍮が露出することで発生します。
今回の修理では、見た目の美しさと、今後の耐久性を両立させるため、以下の工程で修理を行いました。
まずは時計からムーブメントやリューズなどを取り外し、ケースのみの状態にします。
ケース全体を覆っている黒ずみや汚れ、そして剥がれかかっている古いメッキ層を丁寧に除去します。
この工程で、深い傷やメッキ剥がれによる段差を滑らかにし、ケース本来の美しい鏡面(ミラー)仕上げを復活させます。メッキのノリを良くするための、非常に重要な工程です。
研磨後、新しい金メッキを施します。
今回は、オリジナルに引けを取らない、あるいはそれ以上の耐久性を持たせるため、5ミクロン(μm)の厚い金メッキを採用しました。
注釈:オリジナルの「PLAQUE OR G 20 M」は20μmという意味ではなく、一般的にヴェルメイユは2.5μm以上の厚メッキとされています。しかし、剥がれにくくするために、高品質な5μm厚メッキは非常に有効です。
これにより、黒ずみやメッキ剥がれが起きていた箇所もムラなくカバーされ、高級感のあるゴールドの輝きが蘇ります。
新しく輝きを取り戻したケースに、ムーブメントやリューズを戻し、動作確認を行います。
リューズに施された**ブルースピネル(カボション)**の青色と、ケースのゴールドのコントラストが際立ち、見違えるように美しいマストタンクが完成しました。



カイドージュエリーでは、長年の経験と確かな技術で、カルティエ マストタンクをはじめとする高級時計の再メッキ修理、オーバーホール、部品修理を行っております。
「自分のマストタンクも黒ずんでいるけど直せる?」
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時計に関するどんなお悩みでも、お気軽にご相談ください。熟練の職人が、お客様の時計に最適な修理プランをご提案いたします。
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