2026.05.23WATCH REPAIR
カルティエの名作「マストタンク」は、シルバー925(純銀)の地金に金を肉厚に重ねる「ヴェルメイユ」技法が最大の特徴です。しかし、手巻きモデルのように数十年の歳月を経たヴィンテージ時計は、汗や皮脂、空気中の成分によって、時に深刻なダメージを受けてしまいます。
今回お預かりした時計は、まさに「素材の宿命」とも言える大きな課題を抱えていました。
お預かりした際、外装には以下のようなヴィンテージ特有の症状が見られました。
ケース四隅のメッキ剥がれ: 日常の使用で擦れやすいケースの四隅のゴールドが剥がれ、地金のシルバーが露出していました。
裏蓋の激しい腐食: 長年の汗や水気により、裏蓋の金属自体が激しく腐食してしまっています。
「研磨(ポリッシュ)すれば、凹みも腐食も全部消えてピカピカになるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここには職人のシビアな判断が必要です。
腐食の深さ: 今回の腐食は非常に深く金属の奥まで進行しているため、完全に平らになるまで削ろうとすると、裏蓋そのものが薄くなり強度が保てなくなります。
手巻きモデル特有の「浅い刻印」: 特に手巻きのマストタンクは、裏蓋のブランドロゴやシリアルナンバーの刻印が非常に浅く作られています。傷や凹みを消そうと過度に研磨すると、大切な刻印まで一緒に消えてしまうのです。
そのため今回は、「刻印を守り、時計の寿命を縮めないこと」を最優先にしつつ、最大限の美しさを引き出す方針で修理を進めました。
腐食の進行を食い止めるため、まずはパーツを分解し、細部までしっかりとサビ取りを行います。
刻印が消えない限界を見極めながら、職人の手で慎重に表面を研磨します。
本体ケース: タンクらしいシャープな輪郭を活かした「鏡面仕上げ」。
裏蓋: オリジナルの風合いを忠実に再現する、美しい「ヘアライン仕上げ」。
地金を整えた後、一般的な修理店の数倍の厚みを持つ「5ミクロン」の18金メッキを贅沢に施工します。厚い金の層が優しくケースを包み込み、上品で神々しい黄金色を再現します。


四隅のメッキが剥がれてシルバーが露出していたケース が、5ミクロンの極厚メッキによって隙のない均一な黄金色に包まれました。周囲が綺麗に写り込むほどの鏡面が復活しています。


激しい腐食による深い凹みの名残(小さなポツポツとした痕)はあえて残していますが、徹底的なサビ取りと精密なヘアライン、そして厚金メッキを施したことで、見違えるほど衛生的で美しい裏蓋へと蘇りました。大切なカルティエの刻印も、はっきりと美しく残っています。
アンティーク時計の修理は、ただ傷を消せばいいというわけではありません。その時計が持つ歴史(刻印)や、これからの寿命を守ることこそが、私たち職人の使命です。
深い傷や腐食があるからといって、諦めてしまう必要はありません。その状態に合わせた「最善の修復」をカイドージュエリーがご提案いたします。
福井の店頭のほか、全国からの配送修理も大歓迎です。あなたの大切なカルティエ、もう一度蘇らせてみませんか?
▼カルティエ マストタンクの再メッキ・時計修理の詳細はこちら https://kaido-co.jp/watch-repair/